今田元喜の冒険旅行

英国のナローボートと保存鉄道

 2012年6月。 長い間乗ってみたいと思っていたナローボートに乗り、自ら操縦し寝泊まりする旅に出ました。 ロンドンでレンタカーを借り、保存鉄道と登山鉄道に乗った後、いよいよナローボートを借りる運河沿いのナローボート基地につきました。

 イギリスの運河を行き来するナローボートは流れのない運河を馬にひかせて行き来していた、元々は貨物を輸送する小さな船でした。 現代のナローボートはゆったりと船上生活を楽しむ船に変わりました。 操縦に免許はいらず、旅行で来た観光客にも開放された船です。 私は船の操縦の経験は全くありません。 小一時間の説明の後、少し練習したらもう一人立ちです。 夫婦で小さな船の旅を楽しみました。

いよいよナローボートの基地へ(本の抜粋)

Wyre

ナローボート その名は「Wyre」

  ナローボートは土曜日の午後3時から翌週の土曜日の午前9時まで1週間借りる。 ボート名は「Wyre」。 この地方にある地名(ウエールズ語)である。

 ボートの幅は6フィート10インチ、長さ48フィート、定員は2名+2名。 シングルベッドが2台ある寝室、テレビ、テーブル、ソファーのついた食堂があり、キッチンにはシンク、4口ガスコンロ、グリルとオーブン、冷蔵庫がついている。  ワイングラスをはじめとした皿、ナイフ、フォークなどの食器類がすべて半ダースそろっている。 その他に洗面台、温水シャワー、水洗トイレ、クローゼット、本棚や収納引出しもついていて、狭いながら一軒の家で1週間すごす様なものである。

boat

ナローボートは水上のコンドミニアム

  とはいえ、限られたスペースで、しかもナローなボートなので、シングルベッドは少々狭い。 昼間はリビング兼食堂のソファーとテーブルが夜にはダブルベッドに変更できる様に工夫されている。 借りたボートは48フィートで定員4名だが、70フィートの長いボートになると12名乗りやトイレが2箇所という代物もある。

 ナローボートは操船に免許は要らないし、経験も問われない。 ナローボートが行き来するのは元々馬が引くゆっくり運航する運河である。 ボートの速度は人の歩く速さを前提としているので、エンジンで動くナローボートも馬が引くボートと同じスピードの最高時速4マイル(6.4Km/H)と決められている。 実際は3マイル(4Km/h)程度で運航するし、流れのない運河なので、私のようにまったくの初心者でも少々の試行錯誤をすることで何とかなるものである。

 バスタオル、フェイスタオル、ハンドタオルや洗剤は備えられているがトイレットペーパー、食料品、飲み物など日常消耗品は自分で持ち込まねばならない。 基地の近くのスーパーマーケットでトイレットペーパー1週間分、朝食数日分と懐中電灯のバッテリーを購入。

 基地に戻ると既にボートの準備は終わっており、2時過ぎには説明をはじめるので、それまでに荷物を積み込んでおくように言われた。 持ってきた着替えや買い込んだ食料品をレンタカーからボートの収納棚に積み替え2時になるのを待つ。

 ボート会社から事前にもらった注意事項は次のようなもので、キャンプに出かけると思えば理解しやすい。

  1. ボートは限られたスペースなので本当に必要なもの意外は持ち込まないこと
  2. ナイフ、フォーク等の食器、台所用品、シーツ、枕カバーなど生活に必要な設備が整っているが次のようなものは持ってくること
  3. ボートの上で動きやすい着物(夜の水上は寒くなりやすいので暖かい着物も必要)
  4. 滑りにくい靴
  5. マッチ
  6. 懐中電灯と電池
  7. 雨具、手袋
  8. 楽しい時間をすごすためのもの(地図、カメラ、双眼鏡、本、ノート、子供のゲーム、トランプ、筆記用具、応急手当キット、日焼け止め)

ナローボートの旅 操縦見習い中

 2時過ぎ。 空は曇りから雨模様となった。 早速合羽を着てスタッフから説明を受ける。 船首のロープから始め、船内の設備、屋根に乗せた操船用棒から船尾のロープにいたるまで一つ一つ丁寧に説明を受ける。

 エンジンの始動と停止、エンジンオイルと冷却水の点検、スクリューシャフトのグリースアップ、ビルジポンプの始動は特に丁寧な説明で、安全のため特に時間をかける。 そして温水ヒーターに使うガスボンベの切り替えの仕方と飲料水の補給の仕方は快適な旅には聞き漏らせない。

staff

丁寧な説明をしてくれたスタッフ

 一通りボートの説明が終わるとその説明を書いたチェックリストを使って説明した事柄を理解したか一つ一つチェックしてくれる。 最後に船長、副船長として夫婦のサインをした。 これを終わるのにたっぷり1時間はかかった。

 次に1週間の旅をする運河の説明をしてもらった。 ナローボート用の運河地図には水補給場所、停泊場所、水門やUターンのための回転場所など運航に必要な情報のほか、快適に過ごせるようにパブやレストランも記載されている。 今日どこら辺までいけるのか、また夕食にお勧めのパブはどこかなど、とりあえず必要な情報も教えてもらう。 さらに、おおよそ1週間の行程を想定した停泊場所を運河地図に記入し、準備は終わった。

Captain

緊張の中、満足げな顔

 小雨の中、いよいよ出発である。 緊張して操舵席にすわる。 説明してくれたスタッフはすぐ隣でいつでも手を出せる体制。 というより二人で舵を握る。 教えてもらった手順でエンジンをスタートし、恐る恐るスロットルレバーを前に倒す。 ゆるゆると前進しプールに出る。  そこから100mも前進するとそこは2009年に世界遺産となったポントカサルテアクアダクト。 橋の長さは1007フィート(307m)、幅11フィート(3.4m)、深さ5.25フィート(1.6m)である。

 下を流れるディー川からの高さが126フィート(38m)もあるブリテン島でもっとも長く高い水道橋だ。 10年の建設期間をかけて1805年に開通したそうだ。 日本では十返舎一九の「東海道中膝栗毛」や 滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」ができた町人文化盛んな時代だ。 このような時代にイギリスではすでに科学技術を駆使した美しい水道橋が作られていたのに感銘を受ける。

 ナローボートと保存鉄道の旅をまとめて本を出版しました。


単行本(ソフトカバー):156ページ
ISBN:978-4990901905
発売日:2014/9/1
価格:1,000円+送料

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電子書籍
ASIN: B01F5LNRGC
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